書籍編集者の裏ブログ -2ページ目

今そこにある危機

スルツキーです。あれからずいぶん月日が経ちました。8年半ですか。書籍腰巻き惹句小史みたいなことを構想していたのですが、構想8年半ですね。構想しすぎです。でも「半」というのが半端なので、もう少し、構想します。





さてドラスティックに話を変えます。




最近は本が売れなくなったと斯界では声高に叫ばれています。


仮説は乱立しています。


・不景気が続いて、図書館を利用する人が増えた。図書館側も稼働率を上げるため、エンタテインメント小説を多数の副本とともに置き始めた。


・新古書店(ブックオフなど)を利用する人が増えた。


・そもそも(読書)人口が減っている。


・取次店の厳しい要求(「返品率を下げよ」)に、対応するために、どの書店も置いておけばやがて売れるであろう本(=ベストセラーの本、人気作家の本など)を主に置くようになり、各書店に個性がなくなって、「本読み」といわれるヘビーユーザーの足が遠のき(=ネット書店でピンポイント買いする=書店で回遊して目にとまった、本来買う予定でなかった本を買うということが少なくなった)、個性を出せなくなったリアル書店が閉店に追い込まれ(書籍の厳しい料率の問題、雑誌の販売不振なども書店さんを苦しめた)、売り場面積の総和がどんどん縮小している。


・電車の中での時間つぶしとしての読書という行動様式が、スマホいじりに置き換わっていった。


・電子書籍というもうひとつのツールが誕生した。


・住宅事情がよくなく、家の中に本を並べる余裕がない。


・「本を読んで教養を磨く」という文化が薄れた。




といったあたりが、すぐに頭に浮かびます。


いずれにせよ、本を新刊書店で買って読むという人が減っているという事実は動きません。



いやいや、村上春樹さん、宮部みゆきさん、東野圭吾さん、伊坂幸太郎さん、湊かなえさん、百田尚樹さん、有川浩さんなどなど、大ベストセラー作家の本は、活発に売れているじゃないか、という声が聞こえてきそうです。確かにこうした人気作家たちは売れています。売れ売れです。

しかし、売れないっ子作家も猛然と増えているのです。


一極集中型の市場動態といいましょうか、中間がないのです。

中間とは何でしょう。

数字でいえば、初版8,000部で刊行して、きれいに売り切れるか、一回か二回重版して、トータルで12,000部くらい売れるというような本です。


20年くらい前は、「作家」と呼ばれる人の9割がこの中間の人でした。今は、絶滅危惧種です。





腰巻き(帯)に、これを書くとてきめんに売れるという言葉がいくつかあります。


「本屋大賞受賞!」「このミス1位!」「直木賞受賞!」

の三つです。おもしろいことのお墨付きをもらっているということですね。ほかにも、


「紀伊國屋グループで1位」「東大生協で1位」「TVで話題沸騰!」


といった帯も売れます。


ざっくりいえば、「誰かが評価していて、売れている本」ということが分かる宣伝文ですね。


これがポイントです。「評価されている」「売れている」、この2点が大切なようです。読者の方の購買動機はこの2点を押さえておかねば、熱くなってくれないのです。



さて中間の本に戻ります。

中間の本は、直木賞も本屋大賞も取ってないですし、どこかの書店でベストセラーになっていません。誰かが推薦していることはありますが、ほとんどの(中間の)本は、推薦文は付されてないでしょう。


でも8,000~12,000人の方が、手に取り、購入を決断しているわけです。何を基準に選んだのでしょう。


・その著者が好きで、いつも新刊が出れば買う。

・ジャケット(カバー)がすばらしく、いわゆるジャケ買いした。

・知らない著者だったが、帯コピーや目次や冒頭の数行や任意にめくったページの目に飛び込んだ言葉や文章がいい感じだったので、思い切って買ってみた。

・タイトルや帯、めくってみた感じから、今、自分の関心のあるテーマに触れられている本だと思ったから、買うことにした。


などなど、いろんな動機があるでしょう。強引にまとめれば、「自分で選んだ」人たちです。


一極集中になって中間が減ったのは、リアル書店を回遊する人が減ったということも大いにあるのですが、一番大きいのは、「本を自分で選ぶ人が減った」ということなのではないか、と思うのです。


「人が読んでるから読む、売れているから買うという付和雷同型」と「世界でひとつだけの花と出会うために自分で選ぶ型」があるといえそうです。


後者の、自分で選ぶ型は、選択眼を持ってなくてはなりません。自分の好みや美意識がある程度構築されてないと、自分にぴったりかもしれないかどうかの予想さえつきません。


それが減っているのです。


もちろん、自分で選んで(まさに自分の好みとぴったりと分かっていて)、大ベストセラー作家の作品をお買い求めになるのは何ら問題ありません。どんどん、買って読んでいただきたいです。


恐れているのは、自分の好みを封印したまま、世間が買ってるから買うという消費行動です。


みんなが選ぶから選ぶ世の中、こういうときが怖いです。自分で選ばないのです。

自分をしっかり持って、精査して、よくよく考えて、それで選んでほしいのです。

本だけじゃありません。政治家も、政党も、です。
ポピュリズムはファシズムの前段階というじゃないですか。

自分だけの本をリアル書店の本の森に分け入って、よくよく考えて、これぞという一冊を買う。

当たりもあれば外れもあるでしょう。自分だけの一冊と出会うということは、そういうものなのです。これは自分磨きそのものです。

こうした経験を繰り返す中で、腰巻きの惹句の誇張を見抜き、目次の構成から、主題の解析の深度を見抜き、ジャケットから自分の美学とのフィット感を見抜く。感性も論理性も磨かれます。

皆がそうやって書店という道場で自分を磨いていれば、ファシズムになどならないはずです。


戦争抑止のためにも、「中間を買う人」になりたいと思うのです。